来年、感染症学会「予防目的でも不要」 多くの医師が処方
風邪に抗生物質は効くと思いますか?答えは「ノー」だ。ところが、ただの風邪に抗生物質を出している医師は少なくない。
こういった乱用が、どんな抗生物質にも抵抗力を持ってしまう耐性菌の出現を招き、深刻な院内感染を起こすと指摘されている。しかし、最近まで学会や国も注意を促してこなかった。なぜ放置されてきたんだろう。
●「手ぶらで帰せぬ」
風邪の原因の90%がウイルスだ。細菌を殺す抗生物質は効かない。抗生物質は細胞に作用するが、細胞そのものを持たないウイルスには効果がないからだ。
軽い風邪なら十分に休養を取るといった対症療法しかない。抗生物質が必要なのは3日以上高熱が続くなど、症状が細菌によるものと診断されてからのはずだ。ある開業医は「患者を手ぶらで帰すわけにはいかず患者も欲しがる」と打ち明ける。
大阪市の中浜力医師は2001年、全国の開業医409人を対象に風邪患者への処方実績を調べた。すると、抗生物質を「ほぼ全員」に処方するとした医師は30%、 「2人に1人」が32%、「ほとんど処方しない」は4%に過ぎなかった。半数以上が処方の理由として「細菌性二次感染の予防」を挙げた。
●乱用、何度も警告
しかし抗生物質に予防効果がないことを示す研究は数多い。川崎医科大では、風邪の患者2000人の半分に解熱剤などの対症療法、半分に抗生物質のペニシリンを投与した。治療5目以降に抗生物質が必要だと診断された患者は、ともに3人で差はなかった。
日本呼吸器学会は今年6月、成人気道感染症の指針に、風邪への抗生物質の使用はできるだけ控えるべきだと初めて盛り込んだ。投与が適当なのは3日以上の高熱や、うみ状のたんや鼻水が出る場合などに限定した。
指針をまとめた川崎医科大の松島敏春教授は 「抗生物質を『使わない』方針を示した画期的な内容」と話す。
抗生物質では死なない耐性菌が問題となり始めたのは92年、千葉県の病院で大量の耐性菌による院内感染が発覚したことがきっかけ。以来、抗生物質の乱用に対する警告が繰り返されてきた。
松島教授は「怠慢と言われればそうかもしれない。日本の感染指針は、海外に比べ10年遅れている。」と話す。
●購入額、英の約6倍
国の対策はどうか。厚生省は96年、院内感染の問題を受けて抗生物質の診療手引を作成。だが、風邪の項目に「対症療法と二次細菌感染の予防が主体」として、使うべき抗生物質の名前を列挙している。
2001年には日本感染症学会などに新たな手引の作成を委託した。が、ここにも、抗生物質のリストが残った。
手引をまとめた東京慈恵会医科大の柴孝也教授は「細菌性の風邪もあるので、一律に抗生物質を使うなとは書けなかった。」と説明する。
ようやく、来年5月に出す改訂版に「風邪に抗生物質は無効。細菌性二次感染の予防目的の投与も必要ない」との文書が入る。
日本の抗生物質の生産は、ここ10年間減少傾向が続く。それでも1人当たりの抗生物質の購入額は4600円。米国の約5100円より少ないが、フランスの約2600円、英国の約800円に比べると格段に高い。
厚生省は「EBM(根拠に基づく医療)という言葉が出てきたのは、ここ2〜3年で以前は国として指針作成を依頼するのは難しかった」と話す。